- コラム
後見人になったら、まず最初に何をするのか
成年後見人になってすぐにやることは結構多い
成年後見制度とは、精神上の障がいが理由で判断能力が衰えた方を保護するための制度です。
この制度を利用するためには、家庭裁判所に「成年後見制度を使いたいです。」という申立てをします。
すると、家庭裁判所は、本人の判断能力の程度に応じて、次のとおり本人を支援する人を選びます。
- 判断能力が全くない人・・・・・「成年後見人」
- 判断能力が特に不十分な人・・・「保佐人」
- 判断能力が十分ではない人・・・「補助人」
当然ながら、判断能力が全くない人を支援する「成年後見人」の仕事が、一番支援する仕事の量が多いといえます。
ここでは、「成年後見人になったら、まず最初にどんな仕事をするのか」について記します。
1.成年後見人の役割
成年後見人の役割は、本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に代 わって財産を管理したり、必要な契約を結んだりすることによって、本人を保護・支援することです。
なお、成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られています。食事のお世話などの介護は、成年後見人の仕事ではありません。
そして、成年後見人は、自分が行った仕事内容について、家庭裁判所に1つ1つ細かく報告する必要があり、家庭裁判所から指示などを受けることにな ります。
とても大きな権限と責任を負うことになります。
ですから、一般的には次のような方が成年後見人に向いていると言われています。
- 細かな作業が得意である。
- ある程度時間に余裕がある。
- お金に対して几帳面な性格である。
- 責任感が強い。
2.成年後見人になったら、まず最初にやること
① 法務局で「後見登記事項証明書」を取得する
後見登記事項証明書には、「いつ、誰が誰の後見人になりましたよ。」といった成年後見に関する情報が記されており、成年後見人であることの公的な証明書になります。
この証明書は、成年後見人として行う手続きのほとんどにおいて必要になります。
成年後見人になってすぐの頃は、何度も使用することになりますから、何通かまとめて(3通ほど)取得しておくと手間がかからず便利かと思います。
【後見登記事項証明書の取得方法】
◎窓口に行って取得する場合
全国の法務局・地方法務局の戸籍課窓口で申請し、取得できます。(支局や出張所では取得できませんのでご注意ください。)
法務局の場所は、下記の法務省ホームページでご確認ください。
⇒「全国の法務局・地方法務局の場所」(法務省ホームページより)
申請書は窓口に備え付けられていますが、下記の法務省ホームページからもダウンロードすることができます。
⇒「後見登記事項証明書」の申請書(法務省ホームページより)
◎郵送で取得する場合
法務局の窓口に行かなくとも、郵送でも請求できます。
その場合、申請先は下記のとおり「東京法務局」のみとなりますのでご注意ください。
申請方法は、返信用封筒(あて名を明記の上、返信用切手を貼付した長3サイズのもの)を同封して、東京法務局の後見登録課へ送付します。
手数料は「収入印紙」で納めます。1通あたり550円です。(平成27年5月現在)
申請書の送付先は次のとおりです。
東京都千代田区九段南1-1-15 九段第2合同庁舎(4階)
東京法務局 民事行政部 後見登録課
② 本人の財産を調査する
後見人になったら、本人がどれほど財産を所有しているか調査します。
成年後見の申立てをする際にもある程度行っているわけですが、ここでは「後見人」としての権限を使って改めて調査するのです。
本人、親族、施設関係者などからしっかりと聴き取りを行い、最初に取得した「後見登記事項証明書」を金融機関等の窓口に持参して情報開示をお願いして、詳しく具体的に調査をするということです。
なお、この財産目録が作成されるまでは、本人の財産を動かすことができません。
ですから、財産調査は速やかに行いましょう。
財産調査には、参考までに下記のものが挙げられます。
- 不動産・・・・登記事項証明書の取得、固定資産評価証明書の取得、固定資産税支払額の確認
※もし、申立ての段階で取得して提出しているものがあれば、新たに取得し直す必要はありません。 - 預貯金・・・・口座の残高確認、貸金庫の確認
- 有価証券・・株式など
- 保険・・・・・・生命保険など
- 現金
- 借金・・・・・・本人や家族からの聴き取り、通帳の履歴、請求書などの郵便物
- その他・・・・自動車、高級時計、貴金属、骨董品、絵画など
③ 財産目録の作成
財産調査の結果をもとに、財産目録を作成します。
「財産目録」というのは、要するに財産の一覧表です。
この「財産目録」は、家庭裁判所に提出しなければなりません。
提出期限は、裁判所から指示されますが、後見人になってから大体1ヶ月以内が目安です。
上記の財産調査で取得した証明書や通帳、書類などを確認しながら記入します。
財産目録を作成したら、そこに資料として預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを一緒にして提出します。
なお、「財産目録」の用紙については、各家庭裁判所に所定のひな型があります。
裁判所ホームページに財産目録のひな型が掲載されていました。
記載例も含めて下記のリンクをご参照ください。
⇒「財産目録の用紙」(裁判所ホームページより)
⇒「財産目録の用紙(記載例)」
④ 年間の収支予定表の作成
本人の、年間の収入と支出がどれだけあるかを把握して、年間の収支予定表を作成します。
この計画書が、今後の生活を支援していく方針を決める基になります。
この「年間収支予定表」は、家庭裁判所に提出しなければなりません。
提出期限は、裁判所から指示されますが、後見人になってから大体1ヶ月以内が目安です。
なお、「年間の収支予定表」の用紙については、各家庭裁判所に所定のひな型があります。
参考までに、裁判所ホームページ(東京家庭裁判所)に収支予定表のひな型が掲載されていました。
記載例も含めて下記のリンクをご参照ください。
【収入】
年金、公的手当など、本人が受け取っている収入を下記の要領で把握します。
- どのようなもの(種別)
- どこから(名称・支給者等)
- いくら(金額)
年間収支予定表の記載にあたっては、できるだけ年金額通知書や給与明細書 を見ながら書くようにします。
収入がどこの銀行口座に入金されているか、ま た入金の頻度などの参考事項を記載します。
【支出】
食費、家賃、医療費、税金など、本人の生活にかかっている費用を下記の要領で把握します。
- どのような内容(品目)
- どこに(支払先等)
- いくらくらい(金額)
年間収支予定表の記載にあたっては、できるだ け過去の領収書や納税通知書等を参考にして正確に記します。
支出についてどこ の銀行口座を利用しているか、毎月支出されるものか、臨時に見込まれる支出かなど の参考事項を記載します。
全体の支出が収入を上回る場合は,その理由や対処方針を簡単に余白に記載します。
⑤ 裁判所への報告
後見人に就任してからおおよそ1ヶ月以内に、上記で作成した「財産目録」と「収支予定表」を家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所によっては、報告書やその他の資料の提出を求められることがありますので、裁判所の指示に従ってください。
なお、家庭裁判所への報告は最初だけではありません。
その後、おおよそ1年に1回程度、家庭裁判所に定期報告をします。
ただし、家庭裁判所から報告を求められた場合には、指示に従って報告をします。
また、本人の財産環境が大きく変わる時や、住所等が変わる時は、家庭裁判所に相談のうえ、適宜報告を行います。(自宅をリフォームする、譲渡するなど)
最終的に、本人が亡くなった場合には、財産の整理などを全て終わらせたあとに報告します。
1年分の活動を報告するというのは、なかなか大変だと思います。
日頃から財産状況や収支状況を整理したり、日記をつけるなどすると良いでしょう。
⑥ 各関係機関へ後見人に就任したことの届出
これ以後、市町村役場や金融機関などでの手続きは、基本的に後見人が全て本人に代わって行うことになります。
ですから、後見人になったら、本人の後見人になったということを各関係機関の窓口に届出します。
届出に必要な用紙は、それぞれの窓口に用意されているはずです。
どんなところに届出をすれば良いのかは、下記を参考にしてください。
- 市町村役場・・・高齢福祉課、年金課、介護保険課、税務課など(重要な郵便物の送付先として後見人を登録する。)
- 金融機関・・・・・銀行、証券会社など(口座名義を「成年被後見人○○○○ 成年後見人△△△△」と変更するか新規開設します。 後見人個人の口座への金銭の移動は避けるべきです。)
- 年金関係・・・・・年金事務所など(年金受給者を「成年被後見人○○○○ 成年後見人△△△△」として、書類等の送付先も変更します。)
- 施設など・・・・・介護施設に入居していたり、病院に入院している場合。
- 税金関係・・・・・必要に応じて、税務署などへ。
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