- なんでも相談
介護施設は、被相続人のお世話に努めても遺産をもらえない?
私は、高齢者を介護する施設の施設長です。
施設に長らく入所しておられたAさんが、先日亡くなりました。
Aさんには身寄りの方がいなかったため、私どもが職員一丸となってお世話をさせていただきました。
お若い頃に相当なご苦労があった方で、入所された当初は笑顔など全く見せない方でしたが、入所後は多くの笑顔を見せていただきました。
Aさんは、施設での生活が楽しいと仰ってくださいました。
ずっとお一人で生活されていたAさんが、そのように思って旅立たれたことが嬉しいですし、それは施設職員の献身的なお世話があったからこそと思っています。
この方が亡くなって、遺産として多額の預貯金や株式が遺されました。
それを知ってか知らずか、この方が亡くなって従兄弟を名乗る人が現れ、通帳等をよこせと言ってきました。
この従兄弟に、Aさんの遺産を渡さないといけないのでしょうか。
また、私ども施設はもちろん相続人ではありませんが、Aさんの遺産の一部でも施設の為に使わせていただくことはできないのでしょうか。
遺産を従兄弟に渡す必要はありません。
従兄弟は相続人ではありません。
ですから、従兄弟に遺産を渡す必要はありません。
介護施設として、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、もし相続人が現れなければ、特別縁故者として遺産の分与を申し立てることができます。
相続人がいるのかどうかを確認しましょう。
被相続人が死亡して相続が開始したが、相続人がいるのかいないのかはっきりしない場合を、「相続人不存在」といいます。
相続人となる可能性がある人は、亡くなった方の配偶者(夫または妻)のほか、子、孫、曾孫、祖父母、兄弟姉妹、甥、姪に限られます。
従兄弟は相続人になる可能性はないのです。
ですから、たとえ従兄弟がいたとしても、「相続人不存在」です。
なお、戸籍上では相続人となる可能性がある人がいないとしても、本当に相続人がいないとは言い切れません。
亡くなった方が生前に認知していなかった子がいることもあります。
あるいは、戸籍上では他人の子になっている子が、本当は亡くなった方の子である場合もあります。
そこで、相続人不存在の場合には、利害関係人の請求によって、家庭裁判所が相続財産管理人を選任して、相続財産の清算手続きを行います。
この利害関係人には、亡くなった方に対する債権者や、後に述べる特別縁故者も含まれます。
清算手続きは、被相続人の債権の取立て、借金(債務)の支払いなどを行います。
清算手続きと同時に、3度にわたり官報で公告します。
この公告で、亡くなった方の相続財産管理人を選任したことを知らせたり、亡くなった方の債権者などに対して連絡を促したり、相続人を捜したりするのです。
この公告によっても、相続人となる方が現れなければ、相続人不存在が確定します。
そして、後にご説明する「特別縁故者」がいなければ、残った相続財産は国のものになってしまいます。
繰り返しになりますが、ご質問の場合、従兄弟は相続人ではありませんから、遺産を渡す必要はありません。
介護施設は、特別縁故者になりうる利害関係人として、相続財産管理人の選任申立てをして、預貯金や株式を管理人の管理に委ね、後に相続人の不存在が確定してから3ヶ月以内に特別縁故者として財産分与の申立手続きをすることになります。
特別縁故者とは
相続人不存在が確定した場合に、亡くなった方と一緒に暮らしていた人や、亡くなった方のお世話(療養看護)に努めた人などは、相続財産の全部または一部の分与を求めることができます。
財産分与の申立ては、家庭裁判所に行います。
亡くなった方と一緒に暮らしていた人とは、内縁の妻など、戸籍上は相続人とは認められないけれど、実質的には夫婦などの親族と同視できる関係にあった人のことをいいます。
亡くなった方のお世話(療養看護)に努めた者とは、亡くなった方と生計を同じくしていた訳ではないけれど、亡くなった方の親族や知人で、特に亡くなった方のお世話(療養看護)に努めた者をいいます。
法人や団体が特別縁故者になれるかどうかについては争いがありますが、法人等を特別縁故者と認めた判例もいくつかあります。
介護施設が地方公共団体が経営する施設である場合であっても、民間の法人が経営する施設である場合であっても、介護施設が特別縁故者と認められることはあり得ます。
ただし、忘れてはいけないことは、入所者に対して療養看護に尽くすことは、施設として当然の義務です。
ですから、介護施設が特別縁故者と認められるには、当然の義務のレベルを超えて療養看護に尽くし、また亡くなった方にも感謝の気持ちから遺産を施設に残したいという気持ちがあるだろうと推測されるなど、特別の事情が必要になると思われます。
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